日本乳幼児教育学会 第30回大会

教育講演

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テーマ
社会情緒的スキル〜子どもの実行機能の発達〜
講 師
森口佑介(京都大学)

 幼児教育に関わる方であれば,「非認知能力」という言葉は何度も聞いたことがあるだろう。だが,この言葉は,知能以外のあらゆる能力や特性を漫然と指しており。結局のところこの言葉が何を意味するのか,ピンとくる人は少ないではないだろうか。だが,教育や保育に関わる人の中には,この言葉をあまり定義することなく,むやみやたらに使う人が少なくない。講演者はこの現状を危惧している。
 こういう状況を受けて,我々は,「非認知能力」をめぐる研究や研究などの状況を整理してきた。特に,子どもの将来の学力,友人関係,年収,健康に重要である能力は何かという点で整理してみると,「非認知能力」と呼ばれるものには,性格的なもの(外交的であるかなど)と能力的なもの(自制心など)が含まれており,性格的なものは教育や保育ではあまり変わりにくいと考えられること,能力的なものは変わりやすいと考えられることなどが明らかになった。教育や保育で変わりやすい点を重視すると,子どもの将来に重要だと考えられる能力に共通するものは,「自分自身もしくは他人(家族、友人,教師など)と折り合いをつける力」であり,これを社会情緒的スキルと呼ぶことも可能だろう。
 本講演では,社会情緒的スキルの中でも,筆者が過去15 年にわたって研究をしてきた,実行機能の発達についての研究を紹介したい。実行機能とは,目標に向かった行動や感情を制御する力のことを指す。この概念で最も重要なのが,目標を達成するために重要であるという点である。大きく,過去の経験が蓄積して優位になった行動を制御する認知的側面と,衝動性を制御する情動的な側面に分けることができる。
 本講演では,以下の3つの点について,講演者の研究を中心に紹介していきたい。

① 実行機能の両側面は,いつ,どのように発達するのか
認知・情動の両側面は幼児教育の対象である3 歳から6 歳頃に著しい発達を見せる。この時期の発達はほかの時期と比べても急激なものであるため,極めて重要だと考えられる。学齢期には緩やかな発達を見せるが,情動的な側面は青年期に一時期低下する。講演者は,このような発達プロセスの背後にあるのが,外側前頭前野などの脳内機構であることを示してきた。当日,これらの研究について紹介する。

② 実行機能の発達に影響を与える遺伝的・環境的な要因にはいかなるものがあるのか
幼児期の実行機能の個人差は,学齢期以降の学力や問題行動予測することが世界中で示されているため,この時期の個人差が生み出されるメカニズムは極めて重要である。講演者は,外側前頭前野で作用する酵素に関する遺伝子多型や,家庭の経済状態,子育て,生活習慣などの環境的要因が与える影響を示してきた。当日,これらの研究について紹介する。

③ 実行機能の発達を幼児教育や保育プログラムでどのように育むことができるのか
実行機能の発達に環境的要因が大事なのであれば,幼児教育や保育プログラムも重要であるに違いない。この点に関して,ヴィゴツキー教育やモンテッソーリ教育などの特定のタイプの幼児教育や,ごっこ遊び,音楽プログラム,マインドフルネスなどのプログラムが実行機能の発達に関与する可能性が示されている。当日,講演者のものを含めて,これらの研究を紹介する。

最後に,現在大阪府などの自治体と連携して実施している,社会情緒的スキルの発達に関する家庭支援事業についても紹介したい。

プロフィール

【略歴】
2003 年:京都大学文学部卒
2008 年:京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士号(文学)取得
日本学術振興会特別研究員,トロント大学客員研究員
2009 年:上越教育大学大学院学校教育研究科講師・准教授
2010 年:科学技術振興機構戦略的創造研究推進授業さきがけ研究員(兼任)
2016 年:京都大学大学院教育学研究科准教授
2020 年:京都大学大学院文学研究科准教授

【研究テーマ】
実行機能の発達認知神経科学的研究
想像力の発達認知神経科学的研究
子ども特有の認知的世界の解明